第32章 【空色】KT 1℃
~Sideハイリ~
お父さんって…
図太いのか鈍いのかわからない
だけど
たぶん、絶対前者だ。
「お父さん、メンタル強いんだね。」
「そうかい?そうでもないさ
君のお母さんを失った時は、僕も死んでしまおうかと思ったくらいなんだよ?」
目を細めて私の髪を撫でる
そこにあるのはいつもの柔らかい微笑みだ
途端に胸の側にいつも待機している杭が
ジクリと食い込んでくる
返す言葉も
いつもと同じものだった
「……ごめんなさい。」
母は私の所為で死んだのだ
命と引き換えに産んでくれた
どれだけ美化されて聞かされようが
それが紛れもない事実
だけど父はその度に言うんだ
「ああ、ハイリ。君の悪い癖だ、悪いのはハイリじゃない。
いつも言っているだろう?
君だって被害者だ…お母さんが恋しくない筈ないだろうに。」
いつもそう、言い聞かせてくれる
だけど私はこの言葉がすごく苦手で
すごく痛くて
だから急遽変わった空気の匂いに
内心、ホッとした。
すぐさま光の指す方へと振り向いた
―――キィン…
脳天まで貫かれるような鋭音と
追いかけてくるような轟音
揺れる足元に爪先は鈍い光の方へと向きを変えた
途端に暗くなった通路と
下がった気温
暗くなったのは電気が切れたからじゃない
寒くなったのは冷房のせいじゃない
通路に射していた日の光が
遮られたからだ
「こお…り…。」
誰のものかなんて問うまでもなかった
思わず駆け寄った出入り口
視界一面を覆う様に見えた氷は
フィールドからスタンドにかけて斜めに屋根を作っている
この向こう側に
これを作り上げた張本人が居るのだろう
(焦凍…だよね…)
やっぱり見たかった
そんなこと今更言ってもしょうがない
何故か湧き上がっているドンマイコール
焦凍の勝利を告げる審判の声
笑う材量しかない筈なのに
夜中にサングラスをかけたかのような不透明さに
壁についていた手は震えていた。