第32章 【空色】KT 1℃
~Sideハイリ~
「誰かと思ったら楠梨か…。」
大きな父の背中よりもはるかに大きな影
通用口からの逆光に黒く見えたその影は
大きな火を纏うヒーローだ。
(嘘…っ!)
急展開について行くので精一杯だけど
あまり状況が良いとは思えなかった
焦凍のお父さんっだからってだけじゃない
私は今日
来賓の目に付いてはいけないのだ
(って、それを言うならお父さんだって来賓だよ!)
ならば、ここは「良かった」と
息をつくべき所なのだろうか
幸い、身内と知り合いだ
一応…
父同士の邂逅に目もくれず
私の頭はお兄ちゃん'Sとの約束事でもういっぱい
だから、どう振る舞うべきなのか
思考は常に後れを取っていた。
「そうだ、娘を紹介しよう。」
「要らん、今俺は忙しい。」
「まぁまぁ、おいでハイリ…。」
背に回された手は
父の背に隠れていた私の身体を前へと押し出した
対面するのはどう見たって
不機嫌を露わにした焦凍のお父さんだ
まず考えたのは
面識があることを知らない父に
なんて説明しようか
それ一点のみ
(お泊りしました…なんて、言える筈が…。)
チラと見上げたヒーローは
顔をしかめたままこちらを見下ろしているだけだ
何も知らない父の声だけが通路に響く
「娘のハイリだ、会うのは初めてだろう?
確か君の末の息子さんと同じ歳じゃないかな。」
私達が付き合っている事を知ってるくせに
伏せるつもりなのだろうか
ぽんぽんと、私の肩を二回叩く父は
いけしゃあしゃあと嘘をつく
全く警察がこんなに嘘をついていいのだろうか…
と言うかエンデヴァーさんも知ってるんだよ
お父さん!!
(待って頭が追い付かない…。
お父さんに、合わせた方が良いの?
それとも……。)
気持ちは有難いのだけれど
ますます動き方がわからなくなってきた。