第32章 【空色】KT 1℃
~Sideハイリ~
そういえばお父さんは
焦凍との事どこまで知ってるんだろう?
事が事の後
なんだか急に悪いことをしてる気がして
後ろめたさから身を引いた
(もしかして、控室から出てくるとこ見られた?)
見透かす目は“個性”に限らない
親ってだけですべて見抜かれていそう
「うん、そうだね。
スタンドに戻ろうとしてたの。」
「残念だったね、体育祭…応援したかったよ。」
「嘘ばっかり、どうせお仕事でしょ?」
「バレてしまったね、すまない。」
悪びれなく頭を下げる
「申し訳ない」と下がった父の頭は
もう見飽きてしまった。
小・中と
この人が私の行事ごとに来てくれたことなんて一度もない。
消太くんの方が多いくらいだ
あの人はあまり顔バレしてないヒーローだから。
「もう始まるだろう?
この先の関係者通用口から見ればいいじゃないか。」
そう言葉を繕う父が悪いという訳じゃない
お父さんは警察、今や表立って目立つのはヒーローだけど
逮捕後の後処理はすべて警察のお仕事なんだから
ヴィラン蠢く現代社会
忙しいのはヒーローだけじゃない。
犯罪率が高い都心にはヒーローも多い
ヒーローが増えれば検挙率も上がる
それに比例して、警察の仕事量も増える
それは…当然だ。
考えがそこに到達したのは10歳の時
初めて…ヒーローになりたくないと思った
だって私がヒーローになったら
お父さんがもっと忙しくなっちゃうでしょ?
もっと会えなくなっちゃうでしょ?
我ながら、子供じみた思考だったなと思う。
「うん、そうだね。
そうしよっかな。」
「じゃあ一緒に行こうか。エスコートさせてくれるかな?」
「丁重にお断りします!」
きっかけはそんなもの
他の道
という選択肢を自分の中で作ってしまった
そこから見えて来る自分への矛盾に足踏みし
父すら望むヒーロー界への道を長くした
だけどお父さん
私、決めたんだよ
(言わなきゃ…。)
前を行く父
廊下を曲がったその背を小走りで追う
「待ってお父さ…ぅゎっ!」
だけど曲がった拍子にぶつかって
なのにお父さんは返事をくれなくて
振り返ることすらしなくて
言葉は
静かに響いた
「やぁ、エンデヴァー…
久しぶりだね。」