第32章 【空色】KT 1℃
~Sideハイリ~
それはそうと
どこで観戦しよう?
ここからだとC組のスタンドには少し距離がある
最悪立ち見で一般席も考えたけど
(ダメよね…。)
お兄ちゃん'Sとの約束を破る訳にはいかない
悩みながら5m
進む廊下を声が追い掛けて来る
「ハイリ!!」
とても慣れ親しんだ
だけどにわかには信じがたいその声に
私の足はピタリ固まった。
「パパだよーっ!」
おおう……
両手を広げこちらに走ってくる
ピンクベージュのスーツの男
ちょっと遠いけど間違いない、お父さんだ。
なんたって私
目、かなり良いし
「ハイリーー!!」
仮に悪かったとして、見分けがつかずとも
こんなところで、両手を振りながら
私の名を呼ぶ40半ば男なんて、そう…居ないだろう。
実は
居るはずのない父の登場に、かなり驚いている
だけどこんなに叫ばれれば
誰も居ずとも恥の方が上回って
驚きなんか二の次だ
100%来るであろう反動に耐える為
足を踏ん張って、突進してくる父の抱擁を受け止めた。
「お父さん…珍しいね、どうしてここに居るの?」
「可愛い可愛い僕のハイリ
ああ…見る度に綺麗になって行くね、母さんそっくりだ…。
何キロ先に居たって、君を見つけることは容易いよ。」
聞いてない
わかってた
いつもの事だ
父は一方的だ…愛情が…。
可愛いという単語を真に受けてはいけないと
考えることになった主な原因はこの人だ。
「ハイリ…可愛いよ、本当に可愛い。そうだ!
今度パパとデートしよう!パパ皆に自慢するからね。」
一見口説き文句に聞こえるかもしれないこの文句
信じられないかもしれないけれど
これがニュートラルなんだこの人は
一応、節度は保つ事は知っている
保ってUSJの時のアレなのだけど
(困ったな…。)
こう頭を撫でまわされては
折角整えた髪もぐしゃぐしゃだし
もう試合始まっちゃうし
だけど、こんな父を捨て行くことも気が引けて
悩む頭に声が降る。
「観戦、かい?」
柔らかく細めて見下ろす瞳はモスグリーン
いつもと変わらぬ優しい表情だけど
その瞳に鋭く射抜かれたような気がした。