第32章 【空色】KT 1℃
~Sideハイリ~
『ここ居ンなら構わねぇが
部屋から出るならちゃんと服、整えろよ。』
わかってる…そう叫んだけど
言われるまで頭から抜けていた。
焦凍を見送って
初めて自分の格好を顧みて
確かに、この格好で外には出れないなって
ジャージはもうはだけてるどころじゃなくて
腕に掛かっているだけだし
その下に来ていたキャミソールは肩紐が外れているし
だけど、それだけだ
開かれた胸元には
花見かって突っ込みたくなるくらい
赤い花びらが舞い踊ってるんだろうけど
それだけだ
多分、肩には歯形もついてるんだろうけど
それだけだ。
そこに留まったのがせめてもの救い…
(体育祭中に何やってるの私!!!)
……なーんて、考えさせようとしてたんだろう。
流石にそれはバレバレだ
私は本気の焦凍をちゃんと知ってる
始めは勢いだったかもしれないけど
明らかに理性を保ってた
ちゃんと抑えてた
つまりあれは…
私の不安を紛らわそうとしてるんだろう。
(んー…参った…。)
何やってるの私
まさにそれだよ
私、バカだ。
乱れた服を直しながら苦笑する
どっちが癒されてるのかわかんない
だってそうでしょ?
患者さんに治療してもらう医者が何処に居る
勢いをつけて上げたファスナーが
甲高く鳴く
襟内に入り込んだ髪を払い出して
指で梳いて、簡単に結って
誰も居ない控室で
大きく、深呼吸をした
(落ち着け、平静に、冷静に。)
どうも私は焦凍の事になると
平静を保つことが難しいらしい
すぐ感情的になるし
オッドアイの向こう側の心だって
自分の感情が邪魔して読みずらい
こんなんじゃだめだ。
パンパンと乾いた音を立てて叩いた頬は
さっきキスを貰ったばかりの場所
また手を引き上げられた
引っ張ってあげたいのは私の方なのに…。
「よし、応援する。」
気を入れ直して拳を握る
一人で開けたドア
入った時より静かに鳴る音に
背を押されている気がした。