第32章 【空色】KT 1℃
~Side轟~
火照った肌
紺色のジャージから
剥き出しになった肩に歯を立てながら
今の行為に水を注すその声に
あからさまに舌打った
『二回戦進出!!緑谷出久―――!!』
「「……………」」
チッと鳴る口は無意識に
俺を宥める瞳は火照りから潤んだままだ
それが瞬く度に理性を取り戻し
クスリと笑みを返す
無言の会話は
“お楽しみ”の終了の合図となった。
正直に言っちまえば
ホッとした。
流石にこれ以上は理性を保てる自信がねぇ
頬へと落したキスに
擽ったそうに笑うハイリは
まだ何か言いたげだが…
きっと
この言葉とは違うモンなんだろう。
「次…だね。」
それでいい
きっとそれを聞いちまったら
俺は迷う
だから、卑怯だとわかっていても
気付いてねぇフリをするしかねぇんだ
「あぁ、いいとこだったのにな?」
からかえば少しは気が逸れるだろうと
はだけ切った鎖骨を撫でればすぐ赤くなる。
「…………もうっ!」
悪い、悪いと
この言葉を呟くのはもう何度目だろうか
どんなに心配かけたって
こればかりは譲れねぇんだ
何度も言い聞かせた言葉を反芻しながら髪を撫で
抱きしめる。
仮初めのもので構わねぇから今は笑って送り出してくれ
心ン中でそう詫びながら。
「行ってくる。」
「うん、頑張れ!」
両手を握りしめて綺麗に笑う
この上手な笑みだけはあまり好きじゃねぇ
言葉は
大して上手くもねぇ気遣いだった。
「ここ居ンなら構わねぇが
部屋から出るならちゃんと服、整えろよ。」
「ッ…!わかってます!」
頭から湯気を出す勢いで顔を赤らめるハイリに笑いながらドアノブに手を掛ける
遮られるドアの向こう
未だ赤い顔はさっきの笑みより余程良い。
不安にさせてばっかだ
一緒に出るべきだったかと
一瞬だけ思ったが…
その思いは待ち伏せる影に掻き消えた
「邪魔だ。」
ハイリを
部屋に置いてきてよかった。
「醜態ばかりだな、焦凍。」
進む通路
壁を背に待ち構えていたクソ親父
コイツにハイリを会わせる訳にゃいかねぇ…。
グダグダと連ねる聞き飽きた言葉に
牙をむきながら痛感する
仮初めの笑みは
俺の方だったのだと。