第32章 【空色】KT 1℃
~Sideハイリ~
(“初めて”に、か…。)
また、不安にさせているんだろうか
それとも
ひた隠されている例の一件が
更に拍車をかけているんだろうか
父を完全否定する為
母の力だけでトップに立つと言った
この体育祭でケリを付けると言った
その誓いは
焦凍自信を追い詰めるだけのように思えてしょうがないのに
それを溶かしてあげることは
私じゃできない事が今証明されて
ただ、声に出さず詫びる
(ごめんなさい…。)
症状を抑えることは出来ても
完治させてあげることはできない
もしも私がもっと早く決断して
ちゃんと勉強して、訓練を積んで
もっと強くあったら
彼の壁を壊せたんだろうか
逃げた時間を取り戻すように
今更がむしゃらに努力したって
今、この時に苦しんでる大切な人を
癒しきることなんか出来ないなら
意味なんてないのに…。
「ハイリ…」
「うん?」
「好きだ。」
「ん…」
「お前が最初で…最後だ。」
「うん、私も…だよ。」
うわ言のように囁かれる言葉は
まるで約束だ。
ちゃんと約束する事さえ拒んだ私に
不安を感じる資格などあるのだろうか…
(強く、なりたいな…。)
心身ともに強くありたい
一緒に折れてしまわないように
引っ張ってあげられるくらいに
これが私の動機
ヒーロー科へと進む
誰にも言えない不純な動機
恥ずかしくて焦凍にすら言えなくて
胸の引き出しの裏側にそっと隠した
だって、皆はもっと大きな思想を掲げてる
もっと大きな夢を抱えてる。
そんな夢を下から見上げるだけの私は
もしも…なんてたらればを繰り返しながら
ただ、彼の望むままを
受け入れた。
それしか、できなかった。