第32章 【空色】KT 1℃
~Side轟~
控室までの道中
ハイリは一言も話さなかった
ずっと地に視線を止めて
俺の後ろを歩く
問えば「目立っちゃいけないの」だと
どうやら俺と居ると目立つと思っているらしい。
(一人でも十分目立つと思うが…。)
こんなに綺麗な女そう居ねぇだろ
言ったところで聞きやしねぇ
「焦凍の可愛いは、嬉しいけど真に受けちゃダメなの。
あと、お父さんとか、ちよちゃんとか…」
指折り数えていく人の名は
俺が把握している限り全員ハイリの保護者だ。
(親父さん以外、全員ここの教師じゃねぇか…。)
控室のドアノブに手を掛けながら
何気なく浮かんだその考えにふと手が止まる
無論、確認の為だ
振り返れば不服そうに指を折っていくちっこい犬。
子供扱いしないで欲しいと顔に書いてあるが
こんな様を見せられりゃそりゃ無理な相談だ
思わず保護者一同に同情したくなった
が
今はそこじゃねぇ…
「まさかお前、俺まで保護者だと思ってねぇよな?」
「思ってないよ!焦凍はね…」
うーんと唸る小さな間
溜めて投げられた言葉に
一瞬面食らった
「初めて好きになった人!!」
胸の前で手をパンと打ちコロコロ笑う
何も考えてねぇのか
計算して言ってんのか
最近のハイリの変化と
自分の変化に理性が追い付かねぇ…
何でこいつはいつだって
俺の頭ン中を見透かして
その上で最善を選択したような言葉を
ぽんぽんと投げつけてくるんだろうか
熱で回転が落ちていく頭
サラッと出てきた一言に
手を掛けたばかりのドアは勢いよく開き
それ以上の速さで閉じられた。