第32章 【空色】KT 1℃
~Side轟~
冗談みてぇなキスが
真剣なモンに代わっていく
それを俺が実感するのは
恐らくハイリがそう感じた後だ
「ふぁ…っ…ッン…ッ」
舌を結ぶほどに
絡みついた腕から力が抜けていく
縋る指がほどけていく
まるで温室の生クリームのように
ゆるゆると溶けていく
ハイリのそれを感じて
初めて俺は実感できる。
――癒される
“個性”なんざ目じゃねぇ
肌を合わせるだけが全てじゃねぇ
コイツ自身が俺の癒しだ。
緑谷に話した。
親父のエゴ
母親の事
己の誓約
話しながら冷えていく体温は
どう足掻いたって上がりゃしねぇ
痛覚を失っていくような心地は
何も初めての事じゃなかった
入学初日
同じ事をハイリ話したってだけの事だ
あん時
俺を温めてくれたのはハイリだったからか
無性に会いたかった
会いたくて
会いたくなかった
カッコわりぃ様を見せんのが
どうにも耐えらんねぇ
そう、くだらねぇ意地はってみたものの
結局これだ
意味ねぇハズだ
なんたって出会ったその日に
カッコわりぃとこ見せちまってたんだから
「ぅ…ン。」
唇を離すと濡れた唇がふわりと笑う
この表情が一番好きだ
「癒された?」
照れを隠して
冗談めかしてはにかむこの表情が好きだ
「あぁ…ありがとな。」
「こんなキスだとは思ってなかったよ…。」
こっちまで溶けちまいそうになる
この蕩けた表情が…
「わりィ…久々過ぎた。」
「だね。」
初めてなんだ
こんな感情を抱いたのは
ハイリが教えてくれたんだ
親父だろうが何だろうが
邪魔させてたまるか
絶対手放さねぇ
緩やかな時
最終種目の開始を告げるアナウンスが
小さくこだまする
「絶対、1位になる…。」
「うん…。」
優しく頷いたハイリの表情は
何か言いたげで
だが、言わないを選択したようで
惑う視線が下を向く
「……………いこっか。」
「あぁ。」
気づいたが問う事はしなかった。