第32章 【空色】KT 1℃
~Sideハイリ~
診察を拒絶された
それを嬉しいと思ったのは初めてだ。
こんな瞬間に
何度だって恋をする。
「目を瞑ってください。」
「こじ開けたのはお前だろ?」
「それとこれとは違うのっ!」
面白そうにクスと笑う
焦凍の笑みはいつもより少しだけ暗い
本当に参ってるんだ
炎を使いそうになった事
自己嫌悪に苛まれてるんだ。
緑谷くんに自分の事を話す程に…。
(痛いのは心の方、だよね…。)
小さくても怪我くらいはあるかもと思ってた
必要なら診察しようと思ってた
それが
私の存在意義だから
癒す=“個性”だと考える私は
まるでロボットのようだ。
だけど焦凍は「そうじゃない」と言う
欲しいのは“個性”じゃないと
それがどれだけ嬉しい事か
きっと焦凍はわかってないでしょ?
だから
教えたくなったの
恥ずかしいより
嬉しいの方が勝ったの
「閉じてくれないと出来ないよ。」
「お前からしてくれんのか?」
悪戯に笑う
甘く、苦く
心が冷えた空笑い
そんな顔で笑わないで
自分を嫌いにならないで
心まで冷やしてしまわないで
からかわれても
意地悪されたって
どんなにカッコ悪くたって
好きだよ
焦凍は私の特別だから
初めてなんだよ?
こんな事言って貰えたのも
こんなに嬉しいのも
なんだってしてあげたいと思っちゃうよ
「はやくっ」
「言われて瞑ンのも変だろ?」
目を細めて髪を梳く
慣れ親しんだ感触に
心が脳に向かって「正直になれ」と言う
どおせ目は瞑ってくれないんだろうから
もう、しょうがないよね
嬉しかったし
癒してあげたいし
なにより
私だってしたい
「もう…っ!」
両手で焦凍のオッドアイを覆って
触れるだけのキスをする
すぐに唇は離したけれど
そんな気はしてたんだ
捕らえられた頭
私の両手は塞がってるから
もう抗い様なんてない
きっと塞がって無くても
私は抗わなかったんだと思う
その証拠に
口付けが深くなる程に
瞳を覆っていた両手は彼の首へと
きつく巻き付いた。