第32章 【空色】KT 1℃
~Side轟~
まぬけ面の天使が
目をぱちくりさせたまま小首を傾げると
それに呼応するように
淡い日差しが髪に光の輪を作る
光を操ってるかのような光景に目を細め
ふわり視界をよぎる髪を掬い取った。
「てん…し?」
その頭ン中には何が描かれてんだろうか
悩む事は早々に諦めたんだろう
数秒固まったハイリは
傾げた首を反対側へと傾げ
わからないと首を振る
そんな事はどうでも良いと
自分の疑問そっちのけで地に膝をつく
頭一個分
高い位置から見下ろされるってのは
相手が天使様なら悪くねぇ
見上げていると
ふわり、甘い香りが俺を抱き締めた。
「どうした?」
「んーん、こうしたかっただけ…。」
爪を立てられたジャージがキュっと鳴く
下手な嘘に気付かねぇ訳がねぇ
お前がしたいんじゃなくて
俺がして欲しかったんだ
随分
心配をかけてんだろう
昼休憩中は
ただの一度もスマホを手に取らなかった
理由はわりと単純なもん
「緑谷に、話した。」
「うん。」
「やっぱオールマイトと何かしらの繋がりはありそうだ。」
「そっか…。」
さして興味無さそうな相槌は気遣いだろうか
乱れた髪が
どれだけ俺を探していたか
どれだけ走ったのか
強調しているようで
心配かけてばかりだと
ここ二週間のコイツの心情を思って
胸が痛む
抱きしめてくれる腕は
随分と細い
守ろうとして下した決断だったのに
なんでいつも
守られている気がすんだろうな
(情けねぇ…)
わかっていても
求めちまうんだ
距離を取ったから余計に感じた
求めて止まねぇモン
「ハイリ…癒してくんねぇか?」
遠く聞こえる歓声が
この場所は異世界だと告げてるみてぇで
こんなワガママも
今なら許される
そんな気がした。