第31章 【空色】タヒる…
~Sideハイリ~
ライン際の攻防は5分と少し
ほんの僅かな間
それでも長い
静かな分、尚更そう思えた。
先に動いたのは焦凍の騎馬だった
焦凍と言うより飯田くんが引っ張って行った感じだ
急加速した前騎馬
続く両翼も騎手も
慣性の法則に則って身を後ろに倒す
DRRRRとエンジン音を響かせ
弧を描くは黒煙と砂煙
フィールド内に沿うように二重に上がる
構えた緑谷くんは今までと同様
キープの指示を出したかのように見えた。
だが
速度が今までの比じゃない
「え…何が起きたの?」
これだけ離れた距離から見ていても
隣で口を開けたまま固まってしまった友人たちには
何が起こったのかわからなかったくらいだ。
きっと彼にしてみれば言い終わるよりも早く
敵騎馬は視界から消えたように見えただろう。
緑谷くんの騎馬だけじゃない
韋駄天の如くかけた飯田くん以外
その両翼も騎手も
呆気に取られているように見えた。
(私、本当に目が良いんだな。)
私の腕を掴んだままの手は
今や力も入っていない
フィールドに全神経が注がれてるんだろう
なんせ
駆け抜けたその騎手は…
あの速さの中で見事
1000万のハチマキを手にしてしまったのだから。
会場が
湧き上がる
『逆転!!轟が1000万!!
そして緑谷急転直下の0ポイント――!!』
均衡は崩された
静かな攻防に
ようやく打たれた終止符
氷のフィールド内外で
各々の騎馬が激しく動き出す
瞬きする度に変わる電光掲示板
入れ替わる名前とポイント数
忙しそうな電光掲示板の苦労も知らず
追う立場へと姿を変えた馬は
奪われた己が旗を取り返さんと
ここで初めて攻めへと転じる。
鼻を向ける先は後方だ
迷いなく踵を返す
引く前騎馬に押す左翼
残り時間は、とうに1分をきった
さぁ
ここからは激しい乱戦だ。