第31章 【空色】タヒる…
~Side轟~
実況の声にうぜぇと舌を打った
『残り時間約1分!!』
轟、フィールドをサシ仕様し…
そしてあっちゅー間に1000万奪取!!!』
矛先は実況者だか
緑谷だか
クソ親父にだかわからねぇ
冷えた心が頭も冷やしてんのか
状況が正確に見える分
イラつきが増す。
『とか思ってたよ5分前までは!!
緑谷なんと、この狭い空間を5分間逃げきっている!!』
決して余裕はねぇ
かと言って緊迫もしてねぇ
氷のコロッセウムの中は
いわゆる膠着状態だ。
追うものと逃げる者
奪わんとする者と守らんとする者
状況は
俺達に圧倒的に有利に見えたが
「キープ!!」
コレだ
動く度に緑谷の声と共に保たれる距離
牽制するが如く嘴の先を向け
騎手を守らん両の手を広げる常闇の影
(よく見てやがる。)
常に向かって左側
距離も位置も保ってやがる…
グッと握りしめた右手
使い慣れた氷の“個性”を逆手に取られている現状。
これじゃ
最短で凍結させようにも飯田が引っかかる
それにこう動かれちゃ
無闇な凍結は自分の首を絞める
(上鳴の放電も常闇に防がれる…。)
チラと視線を落とせば
左翼の上鳴の額に滲む汗。
体温が冷える
“個性”のせいじゃねえ
大きく動けねぇ現実に
事実この5分間
緑谷はこれで狭い中逃げ切ってんだ。
残り一分…
(この野郎―――…!)
見据えるのは今朝宣戦布告したばかりの男
その緑谷の目もこっちを見据えて離す訳もなく
時間だけが過ぎていく…
先に動くのは
こっちか
あっちか
「皆…」
静かに鬨が上がる
「残り一分弱…
“この後俺は使えなくなる”
頼んだぞ。」
何と明確に言われた訳じゃねぇ
ただ“何か”動くと言葉が指す
「飯田?」
「しっかり掴まっていろ」
問いの答えは
言葉じゃなかった。