第30章 【空色】親拍数
「これが終わったらすぐ本選だよ?
スタンドへ行かなくていいのかい?」
「ん、もうちょっと
今イイトコ。」
「まさか本選を画面越しに見るつもりじゃないだろう?」
「直接見るよ、ちゃんと応援したいもん。」
「ならさっさとお行き。」
「行くよ!これ見終わったらぁっ!」
「ここからスタンドまで、何分かかるかねぇ…。」
「だってまだ…、ぁ…あぶなっ!」
まだ、なんだってんだい!
老婆は年甲斐もなく
心の中でツッコんだ。
ハイリの意識はまだ画面の中に
口では駄々をこねながら
足はしっかり立ち上がっている
気になってしょうがない首位争いは
見るのも憚られるのか
だが気になってしょうがないのか
目を覆う両手の隙間から
チラリと亜麻色の瞳が覗く
もはや釘付けどころか、はんだ付け
まったく、器用なのか不器用なのかわからない
こういう所だけは
いつまで経っても幼子の様
「うわぁぁぁ焦凍おおおお!!!」
愛しい男の名を
目を覆いながら叫ぶハイリに
老婆は気の抜けた息をつく。
前言撤回
やはりこの子は
まだまだ子供だ。
(有難いことに
いつまでも手のかかる子だよ。)
ならばここは
久方ぶりに親らしいことをしても良いだろう。
老婆は一際低い声を出す
数年ぶりの怒る時の声
「ハイリ……」
だが
ピクリと飛び上がった少女の肩は
それでもこちらを向かなかった。
それもその筈
肩が跳ねた理由は老婆の声でなく
一際大きな爆発音
――BooooooM‼‼‼
思わず視線は
ハイリを通り越し
混戦する二人から切り替わったばかりの
画面へと刺さった。