第30章 【空色】親拍数
『オイオイ第一関門チョロイってよ!!
んじゃ第二はどうさ!?
落ちればアウト!!
それが嫌なら這いずりな!!』
部屋の中
例え誰も見る者は居なくなっても
TVの中で、レースは進む
画面を独占するのはその殆どがヒーロー科
中でもA組がその上位を占めていた。
『ザ・フォーーーール!!!』
底の見えない大きな穴から
にょきっと顔を出す幾本もの細い岩山
その間を繋ぐはロープのみ
落ちたら終わりの綱渡り
トップを行くは未だ轟だ
凍ったロープの上を軽快に滑る
続く爆豪が徐々にその差を詰めていく。
しかし状況は
緊迫というほどじゃない
画面の中も
画面の外も
「残念だが…それは無理だよ。」
老婆は殊の外静な自分の物言いに
自嘲めいた笑みを浮かべた。
治癒の場に置けば
この子はきっと
際限なく診ようとする
自分が止めても聞きやしないだろう
例えばその中に
今トップを行く少年が居たとしたら
もしその中で
また余裕をなくしてしまったら
今、目の当たりにしてしまっては
自分は傍観者で居られなくなってしまう
目を閉ざさねば
恐らく気付いているのは自分だけ
ならば握り潰さねば
自分の答えが意外だったのだろう
少女は小首を傾げ
不思議そうに問い返した
「なんで?」
当然だ
治療をする為にここに居る
そう思ってもおかしくない様な育て方をしてきた
高校に入ってからは尚の事
それが自分の存在意義だと思っている事だろう。
(どうしたもんかね…。)
この明らかな矛盾をどう説き伏せるか
傍観者は
自分の選んだ言葉に小さく笑う
「応援、するんだろ?」
我ながら卑怯な言葉を選んだと
己を嘲ながら。