第30章 【空色】親拍数
『今まで以上に頑張る。
だからもっと厳しくして良いよ?』
思い出した言葉はつい先日
縫合の指導をしていた時のものだ
実力を付けたい
ハイリにとってそれは“個性”だけでなく
医療そのものを指す
苦手分野から練習を始める辺り
本気なのだろう。
自分たちが導く道を歩むことを
ハイリはようやく決断してくれた。
傍観者を貫いて来た老婆は
今、この時になって迷い出す。
(この道は本当に正しかったのかね…。)
止めるなら今
ハイリが期日と定めた今日
だが今更なんと言えよう
天秤にかけられたのは
変えようの無い過去と
まだ見えぬ未来
老婆は一人問答を繰り返す。
まだ心が未熟なだけかもしれない
――いや、この子は十分大人になった
ヴィランに取り込まれるよりは良かったはずだ
――確かにそうだ、だがそれは言い訳ではないだろうか
何より我々は、
この子を悪意から守らねばならなかった。
――……そう、そうだ、それが一番の理由だ。
間違っていない
間違っていてはいけない
認めるには
年若い少女の10年という月日は
長く、重すぎた。
(今更アタシらが迷っちゃいけないね。)
迷いを打ち払おうと
首を振る
だがその迷いを揺さぶるように
少女は問い返すのだ。
「ね、怪我をした人たちは
ここへ運ばれてくるんだよね?」
画面に釘付けられていた視線は
いつの間にやらこちらを向き
澄んだ瞳が真っ直ぐに問う
「私も診察できる?
他の科の子も診れる?」
今、このタイミングで
それを問うのか…
画面の中
進むレースは既に
第二関門へと差し掛かっていた。