第30章 【空色】親拍数
(お前が、人の前を行けるはずがないんだ。)
画面の中で崩れたロボットの下敷きになったのは
A組の切島だった。
「死んだんじゃねぇか!?死ぬのか、この体育祭‼?」
そう叫ぶ声に「死ぬかぁー‼」と
叩かれ待ちのモグラのように頭を出す
「轟のヤロウ!
ワザと倒れるタイミングで!
俺じゃなかったら死んでたぞ!!」
続いて怒りを露わにし
B組の生徒、鉄哲徹鐵も
同様に
「A組のヤロウは本当嫌なヤツばかりだな…!
俺じゃなかったら死んでたぞ!!」
他を蹴落として先へ行く
このレースはそういうもの
そしてそれは
ハイリの最も苦手とする行為
もし怪我をしている者を見かけたら
この子は迷わず手を差し伸べるだろう
心配で
競技もそっちのけで手当てをするだろう
下手したら逆走しかねない
怪我人ほど、後ろに居るのだから。
だから、前を行けるはずがないのだ
ただ優しいだけじゃない
父から受け継いだ良すぎる目は
人の心の痛みまでをも敏感に感じ取ってしまう
それが生まれながらの優しさと合わさって
大きな献身的精神となった。
(だからこそ
この道へと導いてきたはずだ。)
自分が進んだ道
ハイリの母が選んだ道
人を癒すこの道こそ
この子に最適だと判断したのは自分だ。
だがこの世界で生きていくには
この過剰なまでの優しさは枷になり兼ねない
相澤が重傷を負ったヴィラン襲撃の一件
あの日の晩
「病院を教えて」と凄い剣幕で訪ねて来た
真っ赤に腫れた下瞼に
ハイリが泣いたのだとまず驚いた
付きそう少年に動揺が見られない事にも驚いた
だがそれ以上に
並大抵の事では動じないこの子の
余裕の無さに驚き
その時初めて、小さな迷いが芽生えた。