第30章 【空色】親拍数
宣誓
音でしか聞くことのないその単語を
高校に上がるまで先生の事だと思っていた
そんなアホの話は置いておこう。
「せんせー」
ハイリが二人の兄に見送られ
長い廊下を駆けていた頃
選手代表として
主審・ミッドナイトの前に進み出た爆豪は
盛大なツッコミとブーイングを受けていた。
「俺が一位になる。」
「「「絶対やると思った!!」」」
調子乗んな、ヘドロヤローと
野次を飛ばす他科の生徒
何故品位を貶めるような事をと
諫める委員長
その全てを掻き切るがごとく
爆豪は立てた親指を首に添え
「せめて跳ねの良い踏み台になってくれ」と
横一文字に切る
朝礼台から降りる男の
座り切ったその赤目は何処を見据えているのか
すれ違いざまに肩をぶつけた緑谷に視線をやりもせず
ただ一点を睨む爆豪
その先に居るは
先程控室で緑谷に向かって宣戦布告した
クラスの推薦入学者、轟焦凍。
気に入らないのは
何かにつけて癇に障る幼馴染か
その幼馴染を相手と認めたクラス屈指の実力者か
見据えられた本人はそんな視線をも
「興味ない」と受け流す
常日頃、ハイリ以外に関心を示さない
そんな轟の表情は今日
いつにも増して影が差しているように見えた。
きっと、ハイリが出場できないからだろう。
轟が不機嫌になる理由と言えば
それくらいしか思いつかない。
冷たく凍り付いている表情に
クラスの面々はそう結論付け
第一種目を映し出す巨大ビジョンへと目を上げる
『障害物競走』
主審・ミッドナイトの声が
空気を緊張感あるものへと誘っていく
「計11クラスでの総当たりレースよ!
コースはこのスタジアムの外周約4㎞!」
不敵に、楽し気に笑う
コースさえ守れば“何をしたって”構わない
さあさあ位置につきまくれ、と
様々な思いを余所に
スタートを告げるシグナルが
ひとつ、ひとつと光を失せていく
そして
「スタ――――――ト!!」
開始の合図と同時に
総勢11クラス、生徒全員が
砂埃を巻き上げ
狭いゲートへと雪崩れこんだ。