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【ヒロアカ】UAシンドローム【轟焦凍R18】

第30章 【空色】親拍数




飴と鞭

為政者の国民懐柔策として始まったこれは
自分たちにうってつけの役割だろう。

だが本当は


(飴と飴、なんだがなァ…。)


走り去る少女を見送り
最も辛いくじを引いた相澤を見やる。

恩師の忘れ形見との付き合いも
その長さはさして変わらない

それでも違う
思い入れの深さが

厳しくしてきたからか
恩師から受けた大恩からか
もっと別の感情からか

もっとも少女に甘いのはこの男
相澤消太だ。

再び苦笑するマイクは
少女の足音が消えてしまってから
やっと振り返った相棒へと声を掛けた。


「仔犬だとよ
よく見てんなァ…妬けちまうぜ。」

「轟が見てるだけじゃねぇ
ハイリが見せてんだろ。」


事実など
少女が知る由もない

本来なら不参加で済むにあらず
自宅待機の指示が出ていた事。

それを相澤が
「ハイリが納得するとは思えない」と
交渉した事

「必ず納得させる」と
頭を下げた事。

少女が
知る必要などないのだ。


(だがな相棒、俺ァ知ってんだ。)


いつも嫌われているとほざく
また嫌われたかと鼻で笑う

ハイリを誰よりも理解していると豪語するこの男は
まだ気付いてないんだろうか?

いつだってハイリが先に呼ぶ名は
飴ではなく鞭だと言う事
何をするにもまず『消太くん』の意を窺う事。

幼き頃にハイリが口にした言葉




『おおきくなったら
しょうたくんのおよめさんになってあげるの。』




『そりゃ残念だァァ』と
大袈裟に頭を垂れた10年前

あの時から自分たちの優先順位は
なんら変わりないのだと

それがせめてもの救い。


(ちゃぁんと伝わってんだぜ
多分なァ…。)


見下ろしたスタジアム中央では
短すぎる選手宣誓に
盛大なブーイングが上がっている

その声にも負けぬ勢いでお道化た声は
誰が為か。


「見せつけられてるってか?
益々シヴィーなオイ
妬けんのにゃ変わりねェ。」


あの中に
可愛い妹の心を掻っ攫っていった少年もいるのだろう。

また一つ
ハイリの旦那様候補から遠のいてしまったと
男は苦く、小さく笑う

ふと見れば、隣に座る相棒もまた
口元に同じ笑みを宿していた。

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