第4章 【桜色】毒占欲 陽性
~Sideハイリ~
ドア越しの会話は温度差が甚だしい。
きっと轟くんはきっと今も
何事も無かったかのような飄々とした表情なんだ。
絶対そうだ。
間違いなくそうに違いない。
それがなんだか物凄く悔しい。
背から伝わる擦りガラスの冷たさを心地良く思える程
私の熱は上がっているのだろう。
一つ息をつき、その勢いのままに息を整える。
よし!と気合を入れたところで
私の背を支えていたドアが開かれ
転げそうになってしまった。
もちろん開けたのは彼だ。
「で? 何が言いてぇんだ?」
着替え終わったのか…見事に私服だ。
見惚れたいところだけど、
予想通りの表情がそれをさせてはくれなかった。
動揺どころか一切の感情を覚らせないようなこの顔。
しっかり手を取って起こしてくれるところが今は憎たらしい。
「いや、だから…ね?
なんでこんなっ…
見えるところに付けたのかな…と思いまして。」
何を…とは言わなかった、と言うか口に出せなかった。
私の心臓はそこまで強くない。
指二本で擦って示した場所は首の付け根、
制服でギリギリ隠れるか…恐らく隠れないだろう。
絆創膏、コンシーラー、ファンデーション…
隠す手段はあるかもしれないけれど
何かと見つけてしまうのが保護者と言うものだ。
もしあの人にばれたら面倒なことになる…
頭に思い浮かべた人物にゾッとしていると
轟くんは目を細めて私の腰へと手を回し
事も無げに言い放った
「見えねぇところに付けるには
脱がさねぇと無理だ。」
「そ、ですね…。」
確かにそうだ。
確かにそうだ。
と言うか根本的な所からしてズレてるんだよこの会話。
パニックを起こした頭は一周回ってやっと冷静さを取り戻した。