第4章 【桜色】毒占欲 陽性
~Sideハイリ~
『とりあえず今日はこれで我慢する。』
不敵な笑みを満足気に浮かべ
当たり前の様に部屋に上がって行く轟くん。
廊下とリビングを遮るドアの向こうへと消える背中を
私はただ茫然と見送った。
「へ……?」
今のは何だったのか?
どういうつもりでの行動なのか?
展開の速さに付いて行けなくて
色々聞きたいことがあり過ぎて
何も言葉が出てこない。
自分の家なのに上がり辛いと言うのはなんとも不可解な話だ。
先に上がってしまった彼と顔合わせづらい。
靴を脱いでも先に進めず玄関で悶々としていると
全身鏡に髪も服も乱れた自分の姿が映っていた。
なんとだらしのない姿なのだろう。
すぐに浮かんだのは寝起きに洗面鏡に映る自分の姿だ。
足元に落ちているクリップを拾い、まとめ直そうと乱れた髪をかき上げる。
ふと目に留まったのはくっきりと浮かぶ赤い痕。
「――――ッと、轟くんっ!?」
今まで躊躇っていたのが嘘のように駆けあがる。
ほんの2、3m先のドアを勢いよく開いて目を見張る。
「ん?」
普通に振り返った彼の姿に開いたばかりのドアを閉めて
そのドアに背を預けた。
いっぱいいっぱいの頭は端的に言葉をチョイスしたようだ。
選び抜かれたその言葉を、私は叫ぶように訴えた。
「なんで裸なのっ!?」
「着替え中だ。」
「だからッ…なんでッッ!?」
「制服のままは過ごし辛ぇ。」
確かにそうだけどっ、
それはもっともだけど違うでしょう!?
次から次へと
よくもここまで翻弄してくれる人が居たものだ。
その場でズルズルと座り込み
一人で頭を抱えた。