第30章 【空色】親拍数
進行が主審であるミッドナイトに移り
実況席に座る男はすぐに視線を後方へと投げた
さァ、やっと俺の出番だ
落した声はハイリ用
宥める時はスウィートに
女も子供も変わらない
ましてハイリはその両方なのだから。
男は囁く
少女の頭に手を添えて
「そうごねんなkitty?」
「だってだって」と泣きついてくる
その憤りをうまく解き、誘導してやる
それが自分の役目。
相澤が鞭なら自分は飴
二つ揃って初めて意味を成す。
少女にとって自分は理解者
だからこそ、ハイリは自分の声を無視できない。
だが
少女の次の言葉に
男の目はサングラスの奥で大きく見開かれた。
「猫じゃないもん、犬だもん。」
キッと見上げて来るその目にあるのは
反発以外の何物でも無い。
強気な態度から察するに
あの少年がpuppyとでも呼んでるのだろうか?
(男の影響ったァすげぇな。)
飴であるはずの自分に対して
まだ丸っこい牙をむく
それは
自分たち以上の存在を得た証拠。
すぐそこで大きな溜め息をつく
ミイラ姿の相棒に苦笑しつつ男は思う
子供とはいつか親元から飛び立つのだと。
(これを自立たァまだ言い難ぇがなァ…。)
苦い笑みをサングラスの奥に隠し
膝を抱えてこちらを睨む少女を見やると
「簡単に折れてやる気は無い」
そう訴えかけて来る。
なかなか強気に出たモンだ
だがまだ甘い、
それも予想の範囲内。
触れ合いこそが少女の糧
“さみしいよ”が求める温もりを
飴は理解していた。
声はそのままに
優しく頭を撫でて男は囁く
「目立たなきゃァいいだけの話さ
TV、来賓の目につくな。
それさえ守れるなら
スタジアム内何処へだってお前の自由だ。」