第29章 【空色】心温
~Side轟~
「覚えておく。」
声が空気を震わせる前に届く距離
直に言葉を受け取った花が
柔和に微笑むのがわかった。
「寝て良いよ」と髪を撫でる手が
ここ数日よく眠れてねぇ事までバレてると
声を大にして示唆してくる。
そういやコイツの“個性”
そんなんだった
バレるのは当然だろ
そんな事も忘れるくれぇ躍起になってんのか俺は
きっと今問われたら言っちまうんだろう
わかってんだろうに聞かねぇのか
無理やり聞き出そうとしないのは
俺の態度に諦めたのか
俺を案じての事なのか
どっちかなんざ
考えるまでもねぇ
「悪ぃ…。」
「うん、大丈夫だよ。」
大丈夫の意味をイマイチ理解しないまま
細い肩に両手を回し思う
この肩にどれ程のモンを背負ってきたんだろうか
今、それはどれ位に膨れ上がってるんだろうか
預けた体重が幹に預けられ
伝い、落ちていく
抱きしめられた頭はハイリの膝へと誘われ
「少し寝なさい」と小さな掌が視界を塞ぐ。
マットレスもねぇ
ケットもねぇ
柔らかいとはとても言えねぇ地面に膝枕一つ
それでも
訪れた睡眠欲は昨夜のものよりずっとデカい。
(本当は別の欲を満たしてくれんの期待してたんだがな…。)
眠りに落ちる直前の笑みは
不思議と暖かなモンに思えた。
「悪い…。」
「いーえ。」
すっかり溶かされて
微睡の中で口にした言葉の意味は
伝わっちまっただろうか
悪いハイリ
やっぱり俺はお前が居ねぇと無理みてぇだ
だから
やっぱ言えねぇんだ。
心配かけて
気ぃ遣わせて
悪いと思ってる…。