第29章 【空色】心温
~Side轟~
艶を帯びた柔らかそうな唇は
花開くかのようにほころんだ
「もしも今、焦凍が抱えてる問題の根っこに私が居るなら、それが原因で悩んでるなら、私の事は気にしないで欲しい。」
甘香の花は優美に笑う
暖かな色を放ち
凍てた俺を溶かさんと髪を撫でる
願いという名の子守歌に
穏やかなまどろみへと誘われる
懐かしささえ感じる自身を抱くハイリの香りに
頭は華奢な肩へと預けられた。
(もしも、なんてどの口が…)
重い頭ン中は皮肉だらけだ。
一応仮定しちゃいるが
確信してんだろう
この件に自分が関わっていると
流石に気付いてんだろう。
「親父」と「診察」
これだけのワードを与えりゃそうもなる
わかった上での問いだった
詳細さえバレなきゃいい
俺がヘマしなきゃいいだけの話
悪いがここは譲れねぇ
バレりゃコイツは
絶対に渦の中心に突っ込んでいく
突っ込んで矢面に立とうとする
(考えりゃ考える程厄介な女だ。)
警戒してても隙間を縫うようにして
心ン中に入ってくるようなヤツだ
いつの間にか絆されて
全部言っちまいそうになる
返事は要らねぇと言われる方が
かえって口を割りそうになる。
今まさに
そっちの方が良いんじゃねぇか
そう思っている自分がいる。
事がはっきりするまでは離れるべきだ
それが最善だろ。
髪に指を埋め
白い首筋に鼻を摺り寄せる
このあいだ付けた傷跡は
もうかなり薄くなっていた。
「焦凍…?」
無理に覗きこんでくるハイリの笑み
その向こう側にある必死さは
安心させようとやってんのか
吐かせようとやってんのか
もうわかんねぇ
ただ
出会ったあの日の夜を思い出させた。