第29章 【空色】心温
~Side轟~
実家に帰ってハイリと居る時間は極端に減った
帰る家もバラバラになっちまった上
クラスも科も違う
一緒に居られる時間と言えば
登下校時と昼休みくれぇだ
どっちも二人きりでいられる環境じゃねぇ
当然ながら
ハイリに触れる頻度も度合いもかなり減った。
産まれ育った家、過ごし慣れた部屋
落ち着くはずの要素は増えた筈だってのに
ハイリが欠けただけでよく眠れねぇ。
わかってた上で選んだ事だが
不服な事この上ねぇ
だが
この状況になって1つだけ
結果的に良かったと思えることがある
それは
ハイリの変化だ。
「こっちこっち。」
手を引かれるがまま付いて行く
悪戯に笑うハイリは
まるで秘密基地に案内するガキみてぇだ
目的地を知らされてねぇ俺にしてみりゃ
秘密基地ってのはあながち間違ってねぇか
ふわふわした足取りを
隠す気も無く前を行くハイリの後頭部を見て1人笑う。
昨日はどっかの空き教室だったが
果たして今日は何処か…
「ここっ」
外へと出て
着いた場所は雑木林
人気が無いにも程がある
そう
ハイリの変化ってのは
これだ。
「しょーぉとっ」
ひらりとスカートの裾を翻し
振り向きざまに
甘えた声で抱き付いて来る
すり寄る様はゴロゴロと
エサをねだる猫みてぇなのに
嬉しそうに振られている尻尾もちゃんと見えている。
(犬か猫かどっちかにしてくれ。)
人目が無くなった途端甘えてくる
むしろ甘やかせと強請ってくる
寂しい分を補おうとしてんだろうが
とんだ態度の変化だ。
「どうした?」
「充電中…。」
ただ
人目はなくともここは学校で
抱きついてくんのが精々
そこがなんともハイリらしいが
こんな時間に
堪らなく癒される
癒されながら
諸々が溜まっていく。
一言で言えば欲求不満だ。
「こんだけで足りんのか?」
ゆたりと編まれた髪を崩さないように
頭を撫でると
胸元に収まっていた人形みてぇな顔が上がる。
コクリと頷く小さな頭の中は
何で満たされてんだか
突然上げられた流れにそぐわぬ言葉に
欲を抱えた俺の頭は音を立てて傾いた。
「何も言わなくていいから
聞いて欲しいことがある。」