第29章 【空色】心温
~Sideハイリ~
「………“おそらく”か
はっきりしねぇんだな。」
「それね、私も思った。」
不満気な顔は
話を逸らされたからではなく
曖昧な答えだったからだろう
彼を包む空気の色が変わる
辺りの温度が下がっていく様な
錯覚を覚えるくらい冷たい色に。
父親の話題になるだけで
彼の表情には影が差す
いつもの焦凍と
今の焦凍
どちらが本当の彼なのだろうと
そんな思いがよぎる程に。
コクリ、飲んだ固唾は
上手く下ってはくれない
石でも飲み込んだかのように
喉につかえて内側を擦っていく。
詳細を尋ねたところで
きっと答えてはくれないだろう
今日も問われるばっかりだ。
「少なくとも雄英入学後は絶対ねぇんだな?」
「うん、焦凍の家で会ったのが初めてだよ。」
この会話、もう何度目だろう…
入学以前
子供の頃の診察なら覚えて無いだけで
その可能性もまだある
だけど
入学後に関しては
今言ったとおりだ
会ったなら焦凍も知ってる筈
普通ならそう考えるのが自然じゃないかな
なのに
焦凍の念の押しようったら、ホントにない。
「確かか?」
「そこは断言します。」
凍てた目の色に
私まで凍えてしまいそうだ
初夏だというのに
室内だというのに
(こんなに、今日は暖かいのに。)
視線は焦凍から逃げるように
壁に隔てられた外へと向いた。
ここからじゃ見えないけれど
きっと外は燦燦と黄金色の日が輝いているんだろう。