第29章 【空色】心温
~Side轟~
とはいえ
家に着いちまった今
そんな事考えてももう遅ぇ
「おかえり。」
「ああ…。」
姉さんに出迎えられるのは久々だ
気まずそうな雰囲気を携えてパタパタとスリッパを鳴らす
いつも落ち着いている姉らしからぬ行動
俺の動きが気になってしょうがねぇんだろう
何も問わねぇが
後ろをついてくる。
だが今この状態で
姉さんの心情まで思いやってやれる余裕はなかった。
「アイツは?」
「ここ二週間は忙しいみたい
多分帰ってこないと…。」
何も情報は与えず
欲しい情報だけを入手して
自室へと足を進める
姉さんを無下にしてぇ訳じゃなく
顔に出さねぇ自信が無かったからだ
今、俺の顔を姉さんが見ちまったら
それこそ放っておいてくれねぇだろう。
(体育祭、なにがなんでも来る気か…。)
全てを拒絶するように入った自室
感情のまま
乱暴に脱ぎ捨てたジャケットが
畳の上に虚しい音をたてる
ヒラと舞った例の写真に
ハイリの言葉がよぎった
『ちゃんとハンガーにかけてください!』
アイツなら
きっとそう言うんだろう
些細なこともハイリに繋げちまうのは
罪悪感か虚無感か喪失感か
薄い笑みを浮かべながら
静かに訴える写真へと手を伸ばす
「…………?」
拾おうとして初めて気付いた紙面の裏
掠れているがそこにある文字に
首は大きく傾いた
“処方”
日付があるわけでもねぇ
ましてやその処方内容が書かれている訳でもねぇ
そもそも
写真の裏に書く内容じゃねぇ
だがあまりにハイリにそぐう単語に
手は自ずとスマホを探っていた。