第29章 【空色】心温
~Sideハイリ~
ポコン、ポコンと音が鳴る
あまり褒められる事ではないけれど
LINEに夢中になりながらの
帰り道はあっと言う間で
気付いた時には見慣れた自宅のマンション前。
無意識に近い行動をとっていた自分の足を見て
ハタと我に返った。
(しまった、買い物する予定だったのに。
LINEに夢中になって忘れてた。)
……ま、いっか。
結構な二度手間になるというのに
現金な私はさして苦にもせず
夕方に行こうと予定を覆す。
そろそろ焦凍も家に着く頃だ
夕方は忙しいだろうし
今はLINEを楽しみたかった。
なんて単純なんだろう
少しでも繋がってられる間は
こんなにも心が温かい。
約束の元律義に送られてきた
使い慣れてない筈の既存スタンプまで
愛おしく思えてしまう。
再び落とした視線
ロビーに一歩踏み入って
送られてきたそのLINEに
私の笑いは最高潮に達してしまった。
【青山見てたら乗り過ごした…】
何故か
自撮り中のジェームスのスタンプ付き
外ならいいけど
流石にマンションの中で不審者の如く見られるのはマズイ
我慢するにしてもこれは…
(もうっっ
どこからツッコんだらいいのかわからないっっ!!)
思う存分笑えるように
とにかく誰も居ない空間に帰りたかった
ホントは一人は嫌だから
寂しいから買い物して帰るつもりだったというのに。
(この人には踊らされてばっかりだ。)
呆れの矛先は彼か自分か
笑いを喉の奥に押し込みながら
無表情で電車を乗り換えている彼の姿を想像する。
うん、まず
降車駅はちゃんと気を付けていてください
それと青山くんじゃなくて
ジェームスね
あと
文とスタンプが
噛み合ってないよ。
(面白い、ボケボケだよ焦凍くん。)
昨日からしんみりしてたから
久々に本気で笑った気がする
わざとだろうか
いや、焦凍だもん
絶対素だよね、これ。
返事をして
画面を閉じる
スマホを握ったままの手で
胸を灯す温度を抱きながら
エレベーターのボタンを押した。
【ごめん、私が悪かった!!】
【やっぱスタンプ無理しないで!】