第29章 【空色】心温
~Sideハイリ~
【気をつけて帰れよ】
【わかってる】
握りしめたスマホ
画面のLINEは勿論、焦凍だ。
『お前を一人で歩かせられるか。』
『やだ、お見送りする!』
玄関で口論した30分前
軍配は私の方に上がった。
「一人で歩かせたくないなら
帰らなきゃいいのにっ」
居なくなった途端浮かび上がる本音が
見上げた空に吸いこまれていく
淡い水色と白のまだら模様
昨日の名残もあって
晴れとは言い難い
風は強く
言葉ごと吹き荒っていく
攫われた髪を耳にかけ直し
ロータリー中央の大時計を見やると
時間は少しオーバーして12時半
今日と言う日はまだ半分近く残っているけれど
私の中では
もう終わっちゃった
そんな気分だった
なのに、まだ中程だよと
主張するがごとく音が鳴る
──Jingle
駅前、雑多のど真ん中
これだけ賑やかな音の中でも
ちゃんと耳に届くそれは
小さな受信音。
閉じたばかりの液晶画面を開くと
下がりきっていた心の温度はすぐ上がる。
【これ青山だよな?】
焦凍の初めてのスタンプは
既存のLINEキャラスタンプ
ジェームスだった。
BYE~と手を振っているイラストと
クラスで1.2を誇る個性的な級友の顔
二つが綺麗に重なってしまっては
笑わずにはいられない
(ホントだ…青山くんだ。)
強いて言うなら
彼なら「BYE」じゃなく「Salut」を使いそうだけど…
そんな細かい事はどうでも良い
おかしすぎて声にならない
スマホを覗きこんでこれだけの爆笑
傍から見たら相当不審なはずだ。
だけど
周りを気にする余裕はちょっとなかった。
【似てるっ!!】
【だよな】
かなり気に入ったんだろう
それから暫くは
スタンプの嵐だった。