第28章 【空色】プラシーボ効果
~Sideハイリ~
約束って偽薬みたい
小さな約束を連ねながら
そう思った。
有用な成分なんてどこにも入ってないのに
飲んだって事実だけで効いた気がして
傷みまで癒えてしまう。
それがあるだけで
不安が紛れてくれる。
ここのところ毎日この偽薬を摂取している私は
既に中毒になっているのか
明日から途絶えるかもしれない約束を補うかのように、次々に約束事を並べていく。
「あ、あとね…」
「まだあんのか?」
そう言って目を丸くしながらも
焦凍が笑ってくれるから
尚更言いやすいなって
欲が出たのかもしれない。
もう少し遠い未来の約束が欲しい、なんて
初めて思った。
「いつか、ね…」
いつかでいい
本当に自分が焦凍の帰る場所になれたらなって
そう、本当にそう思ったのに
「ぁ…」
出そうとした言葉が凍り付いて
唇まで固まって
口は渇いて
喉が貼り付いて
自分の違和感に気付いた頃に
耳の裏側にひたりと何かがへばりついた。
『なんと儚いものだろうね。
そうは思わないかい?』
ぞわと降りて来る寒気
表皮が騒めき立つ
光の届かない深海に
閉じ込められた様
見えない壁の向こう側に
現われては消え
消えては現われる気泡
その中に閉じ込められているのは
憎悪の籠った声と
嫌悪に満ちた瞳
あの声は、あの瞳は
だれ、だっけ……?