第28章 【空色】プラシーボ効果
~Sideハイリ~
漏れ出た声は無意識に
重みを増した頭を支えんと突いた両手は
反射運動と言って良いだろう。
取られた両腕にバランスを崩した身体が
目の前の胸に倒れ込み
見上げたその目にはっとした
こんなに辛そうに笑う焦凍を見るのは初めてで
そこで初めて気付いたんだ
露骨な態度をとってしまったと。
「ごめんね。」
「何の詫びだ?」
「駄々こねたから。」
「こねてねぇだろ、まだ。」
照明を落とした部屋
ベッドの中ではもう表情は良く見えない
最期に付け足された「まだ」には
言いたい事があるならはっきり言え
そんな言葉が含まれている
それはわかった。
充分すぎる程伝わってしまったんだから
言葉にする必要はないと思う私は
やっぱり可愛げが無いだろうか。
柔らかく細められた瞳が
慣れて来た夜目に淡く光る
頭を撫でてくれる手はゆっくりと
静かな間が素直になれと呼びかけて来る。
(第一メリットないじゃない、焦凍に。)
言葉にしたとして困るのは焦凍でしょうに
それは焦凍だってわかってるでしょうに
なんでそんなに言わせようとしているのか
今ちょっと気遣える言葉が出てこないんだよ
知ってるでしょ?
私、咄嗟の嘘が苦手なの。
胸のど真ん中に居座る感情は
昼間送り損ねた五文字によく似てる
【あいたいよ】
それがくるくる回って
洗濯機に放り込まれた衣類の様に
洗われて
すすがれて
脱水が終わる頃には
形を少し変えていた。
言っても困らせるだけでしょ?
言うべきじゃないよ
頭でそう思ってたのは確かだ
「さみしいよ。」
今日はなんだか
感情をコントロールできないや。
掠れた声で押し出された
自分の本音にフッと笑う
だって
困ってるだろうに
焦凍が嬉しそうに笑うから。