第28章 【空色】プラシーボ効果
~Side轟~
「えぇ…。」
消え入りそうな声は
遠慮した訳じゃなく思わず出ちまった
そんな感じだった。
見開いた目とぽかんと開いた口
次第に眉は八の字に
閉じた口もぱちくりさせていた瞳も
頭と共にしゅんと垂れていく
嫌だと口には出さないものの
表情・態度共に嫌がっているのが見て取れた。
(予想外の反応だ。)
正直、驚いた。
基本心の内を完璧すぎるまでに隠そうとする
そういう女だ。
こんな素直な反応は勿論嬉しいが
この件に関しては
参ったとしか言い様がなかった。
(どうするか…
理由を話す訳にもいかねぇしな。)
緩む口元を咄嗟に手で覆う
浮つく自分を戒めるには
目の前の光景が可愛すぎだ。
嬉しい分
この意見を押し通すのが、辛ぇ…。
両手をラグの上について
項垂れた頭をくてくてと傾げるハイリは
恐らく…悩んでんだろう。
暫くすると
犬みてぇに唸り始めた。
「ぅー…うーん…ぅぅぅ。」
付けっぱなしのテレビより
小脇に抱えた本より
コイツを見ている方がよっぽど面白れぇ
そういや、今日はあまりにも会話が少なかったと
笑いざまに思い出した俺は
上体を支える二本の腕を取った。
支柱を失い倒れ込んでくる小さな顔
トンと胸に預けられた体重が心地いい
いつもより空気を含んだ髪を撫で
頬がまた緩む
やはり
昼間言った言葉に偽りはないのだと
俺にはコイツ以上に大切なモンはねぇ
「寝るか?」
「……ぅん。」
説明もなくこんな結論を突き付けられて不安なんだろう
ハイリの返事は小さく
見上げる瞳は揺れている
細い指に込められていく力が
どれだけ不安にさせてるのかを
はっきりと示していた。