第28章 【空色】プラシーボ効果
~Sideハイリ~
お風呂から出ても
焦凍はどこか上の空
ずっと怖い顔をして
思い悩んでるみたい。
何があったんだろう?
それはきっと緑谷くんに関する事で
オールマイトに関する事で
昼間の騒動とは全く別の事
だって
帰っていの一番に投げられた問いは
未だに放置されたままだもん。
“何か”あったんだろう。
あくまで推測
だからこれ以上はわからない。
困ってるのは私的な事で
私の話を切りだせないとか
お詫びするタイミングを失ってしまったとか
そんな局部的なものじゃなくて
(読めない……。)
なんでだろう…?
目を見てその人の感情を読み取る。
小さな頃から特技だとすら思っていたのに
突然読めなくなってしまった。
(突然? ちょっと違うかな…。)
思い返せばちょこちょこあった。
一番はっきりと覚えているのは
焦凍のご実家に泊まった時
あの夜は
私が動揺していた所為だと思ったけれど
焦凍の感情だって乱れてた
正確には私が乱してしまった。
いつだって原因は――私だ。
なら今回も私の所為
なのだろうか…。
焦凍はずっとテレビも見ずに読書中
だけど読んではいない
目もページも動いてないもの
文字を追わず
ぼんやり眺めているだけ
私の知らない所で何かあったんだろう
少なからず私が関わっているんだろう
だから関与して欲しくないんだろう
悟られないように
目を合わせないようにしてまで
(もう少し自然になってくれればいいのにな…。)
素直な焦凍は
態度の変化もあからさまだ
(しょうがない、明日はお休みだし
私の話は明日の夜にでも…。)
そう思った直後だった
「ハイリ」
パタンと本が閉じる音がして
二色の瞳が久しぶりにこちらを向く
読み取れない無表情がどこか冷たく見えたのは
「明日から暫く
実家に帰ろうと思う。」
きっとこの言葉のせいだ。