第4章 【桜色】毒占欲 陽性
~Side轟~
自覚は
思っていたより早く来た。
緑谷自身ではなくその“個性”の事を考えている。
わかっていても面白くなかった。
好きなはずの女に対して、あまりにそぐわない毒々しい感情。
悟られないようにと勢いで帰ったものの
鉛でも飲んだかの様な症状は悪化するのみで
ハイリの側に居た方がまだ楽だった
そう思って家を出た。
なのに
『この辺さ、案外物騒なんだよね。
だから女の子の一人暮らしって危ないしさ
ね?』
エレベーターを降りて目にした光景。
明らかに年上だろう男は
ハイリの肩に手を掛け、退路を塞ぎ
頭の中まで軽いのかと思わざるを得ない言葉を吐きやがる。
瞬時に思った。
(きたねェ手で触んじゃねェ…)
早くコイツの視界からハイリを消してしまいたい。
緑谷の時よりもはっきりと
激しい程の、どす黒い感情。
でかかった分わかりやすかった。
『独占欲』
抱いていた感情の名。
「アイツとどっか出かけてたのか?」
初めて見たハイリの私服は、ちょっと出かけると言った装いには到底見えねぇ。
自分の腕の中にこいつを収めても気にせずにいられないのは、あまりに薄手な桜色のワンピースと無防備に晒された項のせいだろう。
「違うよ。出かけようとしたらばったり…っていうか、お隣さんらしくて。」
尋ねた割に返された言葉は頭に殆ど入って来ず
『違う』とだけ理解する。
安心と共に込み上げる焦り
俺がもたついてる間に誰かに掻っ攫われていきそうで
今はとにかく
(俺だけのものにしたい。)
それだけだった。