第4章 【桜色】毒占欲 陽性
~Sideハイリ~
声とか、温もりとか、匂いとか
昨日会ったばかりの割に
そんな曖昧な情報でこの人が誰か瞬時に察してしまう程
私はこの人のコトが好きなのだろう。
「大丈夫です、一人暮らしじゃないんで。」
頭のすぐ後ろで聞こえた言葉に
この人はまたすごい嘘を……
なんて思ったけれど
首に回された腕をしっかり握ってる私は、自分で思ってる以上に安堵しているんだ。
事実、今の今までこれでもかって程強気だった隣人さんは、
随分と引けっているように見えるし
お陰でさっきまでの不快感は嘘のように無くなってしまった。
我ながら現金なヤツだ。
「ぁー…ごめんねー
彼氏くんと一緒なら安心だねー。」
さっきまで我が家のドアを抑えていた手で頭を掻き後ずさる。
恐らく大学生だろうに、ここまで高校生に気圧されるのって珍しいんじゃないかな…?
一体どんな顔をしているんだろうと振り返ろうとしたけれど、頭の上に顎を置かれてそれは叶わなかった。
「ハイリ、入るぞ?」
「あ、はいっ!」
何はともあれ助かった、ホッと息をつき鍵を開ける。
去り際に隣人さんに会釈をすると、へらっとした笑顔で「物騒なのは嘘じゃないから気をつけてね~」と手を振られた。
随分、過干渉な隣人さんだ。
一応親切なわけだからお礼を言うべきかと口を開こうとしたけれど、轟くんに背を押されてそんな笑顔はすぐにドアに遮られてしまう。
「俺これでもヒーロー科なんで
コイツ一人くらい守れます。」
ドアが閉じる直前の彼の捨て台詞は、惚れた腫れた抜きにしても胸にキュっとくるものだった。
(キュンとするってよく言うけれど
ホントにキュンってするものなんだ……。)
好きなんだからときめくのは当然だ。
いやたぶん
好きじゃなくてもこれはときめくんじゃないかな…?
聞きたいことは山ほどある。
言わなきゃいけない言葉ももちろんある。
だけど、ドアが閉まった途端に後ろから腕が回されて
それも憚られてしまった。
もう…
こんな事されて期待するなと言う方が無理な話だ……。