第4章 【桜色】毒占欲 陽性
~Sideハイリ~
『知らない人について行ってはいけません』
『暗い所で一人になってはいけません』
子どもなら誰しも一度は親に言われた事があると思う。
加えて父はその後にいつも付け足していた。
『それでも出くわしたら逃げなさい、隠れなさい。』と
どれだけ暇でどれだけ先輩風を吹かせたいのかわからないけれど、ちょっとこれは迷惑だ。大きなお世話と言うやつだ。
父の教訓に沿って選び出された言葉は
意外な言葉によって往なされた。
「あ、手伝おうか?
てかさ、隣の間取りってどうなってんの?
ウチとは逆らしいんだよね~
ちょっと見せてくんね?」
……………………お父さんの嘘つき!!
これで万事OK!
みたいなこと言ったくせに全然効果がないじゃない!
無いどころか悪化してるじゃない!!
今から入るハズのドアに手をついたまま向けられた笑顔に、
こちらの笑顔も引きつってしまう。
これじゃ入れないじゃない。
大体、今『ウチとは逆』って自分で言ったじゃない。
知ってるんじゃないの?
見る必要どこにあるの?
反論しようにも隣人さんの言葉は止まらず
口出すタイミングがなかなか掴めない。
「この辺さ、案外物騒なんだよね。
だから女の子の一人暮らしって危ないしさ
ね?」
ね?
って、だから家に入れろと言いたいの?
物騒だという情報は初耳だけど、女の子の一人暮らしだからセキュリティ付きを選んだハズなんだよね。
まさかセキュリティ内にこんな人が居ようとは思ってなかったよ。
これはもうヴィランだ。
他の住人さんのためにも撃退した方がいい。
通報してもいいかな…
いいよね?
(よし!)
そう気合を入れた時だった。
「すみません。」
上がった声に振り返る間もなく腕を引かれ
ポスンと背中が何かに埋もれた。
急に遠のいた自宅のドアに向かって無意識に伸びた手は
大きな手に掴まれて自分の胸へと納まる。
(………へ?)
何事?
って胸の中で呟いてはみたけれど。
それが誰かなんて考えるまでもなかった。