第26章 【空色】躁と鬱
~Side爆豪~
もしもどっちか選べつったら
ハイリは迷いなくアイツを選ぶんだろう
らしくねぇ事を考えては
ゆっくり速度を上げる車を見送っていく
不意に呼ばれた名に意識を引き戻された時
ンなこと考えてたモンだから
我が耳を疑った。
「あのね、私
どっちを選ぶかはっきりしようと思ってるの。」
「………………は」
出て来た言葉は
まんま考えてた事で
訳も分からず身構えた。
選ぶ……だと?
何を?
頭の中にあるモン以外の選択肢が思い浮かばねぇ
だからと言ってこの言葉を鵜呑みに出来るほど
おめでてぇ人間でもねぇんだ俺は。
(何言ってんだコイツ…どっち?選ぶ?)
仮にこれがマジモンだとして
こんな決断下すなんざ普通じゃねぇ
そんな女じゃねぇ
今の俺の考えが間違ってるとは思わねぇ
そこまで自惚れる材料がねぇ
湧いた頭を冷やそうと汗がこめかみを伝う
店内がいつの間にかサウナになっちまったようだ。
後になって思えば大分テンパってたってだけだが
こン時は冷静に頭を回して返したつもりだった。
「そもそも悩んでたんか…。」
「………やっぱりそう見えたよね。」
苦々しい笑みにあるのは後ろめたさと謝意
見えたか…じゃねぇよ
そうじゃなきゃおかしいだろうが普通よ
(有り得ねぇ…。)
騒ぎ初めた心臓を
警戒すべきだと頭が叱咤する
大して聞いちゃいなかった店内のBGM
ンなモン一切耳に入って来なくなっちまった。
浮つきそうになる心を沈めようと
重石を探せども、
出てくる言葉はふわふわとした
綿菓子みてぇモンばっか
その所為で全神経がハイリに向く。
「正直、考えないようにしてたんだけど
このままうやむやにするわけにも…でしょ?」
腹を決める
そう言って身を乗り出すハイリの姿に
椅子に上げてた足の底がトンと音を立てて
フロアの床を叩く
誰が何と言おうが意地でも止まらねぇ
そんな表情だった。