第26章 【空色】躁と鬱
~Sideハイリ~
頭の中で声がする
いわゆるもう一人の私と言う奴…
天使なのか悪魔なのかわからない
いつも頭の隅っこに隠れていてふと顔を出す
「決めなくていいの?」
「このままズルズルいくの?」って
その度悩む事すらせず追い返して
逃げて来た。
だけど今
被害者を目の前にしてしまっては
もう悩む時間なんて無いと考えるべきだ。
このままズルズルいけば
A組、下手したらヒーロー科の全体の
イメージが落ちていく一方。
天下の雄英高校
幼い頃からお世話になったこの学校の
最大の誇りをこれ以上貶める訳にはいかない。
答えは決められなくとも
どうするかくらいは決めなきゃ…だよね。
この宣言は
自分を追い込む為だ
「ね、爆豪くん。」
「あ?」
返す相槌が素っ気なくとも
こんな真面目な話だと
背筋もピンと伸びてしまう
爆豪くんは抓んだポテトを口に運びながら
変わらず掴み処のない視線を私の方へと投げて来る。
それでもその目を見てはっきりと言った。
「あのね、私
どっちを選ぶかはっきりしようと思ってるの。」
「………………は」
赤い視線は
このお店に入って初めて私に留められた。
開いたままの口から
頓狂な声が漏れ出て
ポテトがころりと落ちていく
目の前のヒーローの卵はそのまま固まってしまった。
(やっぱ、意外なことなんだ。)
口にしたからにはもう引けない。
事情を知ってる皆は
何も聞かないでいてくれているだけで
気になってる人は絶対いる筈だ。
この不安定な状態は
その内ヒーロー科にも不信感を与えかねない
(ヒーロー科か普通科か
どっちかに決めなくちゃ。)
未だに手を付けられていないフルーリーは
もう、半分ほど溶けてしまっている
それが何かのカウントダウンのようで
膝の上で握りしめていた両の拳を更にきつくした。