第26章 【空色】躁と鬱
入ってきた瞬間にピリピリと伝わって来る
ほどんどの男が着替え終わった更衣室内は
殺伐とした色に塗り替えられた。
醸し出しているのは爆豪か轟か
両方だ
一切交わらない二人のオーラが
聞かずとも二人の間に何かあったのだと訴えて来る。
やはり…と目を逸らした男四人と
何かを察した他クラスメイト。
空調は確かに回っているはずなのに
空気は微塵も動かない中
自分の考えを押し通したい…
悩む切島の脇腹を
瀬呂が肘でツンと突いてくる。
「考え直せ」と。
反論したくともこの場では出来まい
音を立てず息をついた切島は
この藍色の空気から抜け出すべく
先に扉を開けた上鳴の後を追った。
「言うべきだろうが」「無理だろ今更」
この問答を今日まで何度繰り返しただろうか
1対2ではただでさえ押し通すのも難しい
昼休みのハイリの言葉でそれはさらに難しくなってしまった。
『爆豪くんに焦凍が何言うかわからない。』
『どちらも悪くないんだから。』
階段の手すりにしがみ付いて
頑なに保健室への道を拒絶するハイリ。
駄々を捏ねる子供の様に
麗日の説得に首を振る。
保健室に行きたがらない理由はただ一つ
証拠が残ってしまうから。
轟が爆豪を責めるのを余程嫌がっている
そう見えた。
その様にふと首を傾げた切島は
思い切って俯いたままのハイリに尋ねた。
『ハイリちゃんにとって
爆豪ってそんなに大事な相手なのか?』
皮肉じゃなかった
嫌味でもなかった
ただ爆豪にどれ程の望みがあるのか
伺いたかった。
ウン…と唸ったハイリが
それをどう受け取ったのかはわからない
ただ赤く染めた頬を人差し指で掻きながら
『あそこまではっきり言ってくれる
友達って初めてなんだよね。』
だから大事にしたい、と……。