第26章 【空色】躁と鬱
~Side爆豪~
タイを掴もうとして急に上がった視線に
思わず出そうとしていた言葉を止めた。
何ごとかと待ってみりゃ
ゴソゴソと取りだしたのはスマホだ。
話し相手の了承も得ず、画面に指を伸ばす轟に
飲み込んだばかりの声は一際大きく響いた。
「いい加減にしろやこン……「爆豪」」
目線を画面から離すことなく
声だけが向けられた。
その目は大きく開いたまま瞬きすらしねえ
黙ってやる理由がねぇ
それは間違いねぇのに
その一瞬で変わった轟の表情に言葉を飲んだ。
いつも表情のねぇスカした野郎だが
それとは違う、凍てついた表情
それが向けられた画面の向こう側に何があるってんだ?
俺の怪訝な目も恐らく入ってねぇ。
徐々に細められていく目は
挑発する時ともスカしてる時とも違うモンだ
壁についたままの足が
キュ、と音を立てて5センチほどずり下がった。
辺りの気温が下がった気がしたのは
コイツの“個性”かそれとも…
「てめェがハイリをよく見てんのは認めてんだ。
だがよ…」
背がゆっくりと壁から離れていく
ユラと揺れた前髪が目元に影を落としたせいで
小さく動く口が目立って見えた。
スマホをポケットに戻した後も顔は上げやしねえ
その伏せた目が見据えてんのは
一体何だ?
「…違ぇんだ。」
僅かな風を伴って去って行く
靡いた前髪の隙間から見えた男の横顔に
身の毛がよだつ
その瞳にある色に
ゾッと悪寒が駆け抜けた。
どんな暗い色より暗く
どんな冷てぇ色より冷てぇ
何色でもねぇ
色味がねぇ
向けられた先は誰だ?
「俺じゃねぇ…ってか?クソがッ」
壁に立てたままの足でもう一度壁を蹴り背を向ける
見渡す廊下にゃ誰も居ねぇ
時間はとうに午後の授業へと食い込んでいた。