第26章 【空色】躁と鬱
~Side爆豪~
向けられた敵意が肌を刺す。
俺がハイリを逃がしたのがそんなに気に入らねぇんか。
感情を向けられたのはこれが二度目だ
一度目より露わなソレには間違いなく苛立ちが見えた。
前は精々牽制ってとこだったが…
(遅ぇんだよ、クソが。)
始まった時にゃすでに差はついていた
どっからどう見ても奪える雰囲気じゃねぇ
ハイリの目にはコイツしか映ってねぇ
ンなモン周りから言われずとも
このクソ短い間に何度だって実感してんだ。
極め付けが一昨日の会話
敵わねぇんじゃとまで思わされた。
だから
これに気付いた時
教えてやる義理なんざこれっぽっちもねぇ
こっちのカードを先に切る必要がどこにあるってんだって
そんな小せぇことを考えた。
「周りを見てやれっつってんだよクソがッ」
ついた悪態は
自分に向けたモンだ。
笑えねぇ
ンな事して奪えたとして
俺が納得できるわけがねぇ。
そんなんで
納得できんならとっくに諦めとるわクソが。
ハイリは震えていた
首筋には歯型だけじゃねぇ
赤い筋まであった
デクの時
俺ン時
他にもアイツの患者はいくらでもいる。
その度にコイツがハイリにあんな事してんだとしたら…
「てめェまさか
キレる度にあんな事してんじゃねぇだろうな?」
どんだけハイリが受け入れていようが
見過ごせねぇ。
声は抑えるほどに凄みを増す
問いに答えは返した
だがこっちの問いへの返事はねぇ
時間だって有限だ
仮に無限にあったとしても
長々と待つ余裕なんざ俺ン中には今ねぇ。
さして長くもねぇ間に業を煮やし
男のすぐ横の壁に足をつく
ダンッと弾くような音が辺りに響いた。
さっきまで俺に向けられていた目は
今やどこも見ちゃいねぇ
宙の一点へと止ままったままだ。
「返事しろやオイ――…」