第25章 ♦番外編♦ ましゅまろホリック
「そうだった…。」
思い出したかのように瞳を上げた轟に
ハイリは椅子ごと身を引いた。
先月のバレンタイン
どちらがどちらへ渡したのは未だうやむやに
出来ればこのまま終わってくれればと思っていたのに…。
どうやら
そうも言ってられないようだ。
「しょう、と?」
ゆらりと立ち上がったその男の顔は
もはや反省の色なんてどこにもない。
いや、そんなものは最初からなかったが
あった筈の不満の色すらない。
切れ長のオッドアイは煌々と爛々と
何かを思い出しかつ、目的を見つけたようだ。
その手は素早く
逃げんとしたハイリの腕を捕らえた。
「待って、言いたい事はなんとなくわかる。
でもダメ、ここではダメ。」
「わかってる。」
素直に了承しているが
その目は明らかに獲物を捕らえた獣の目だ。
いつの間にか立場逆転
それもそのはず
ここではダメ
それはすなわち
ここでなきゃいいと言う事だ。
「帰るぞ。
俺の欲しいものくらい言わなくてもわかるよな?」
クラスメイトにもわかる程の嫌味と
愉悦に染まった笑みは
不満からくるストレスの反動か
美しくも恐ろしさを湛えたその表情に
緑谷もその後方のクラスメイトも己の時を止めてしまう。
「いや、でも…折角のパーティなのに…ね?」
故に
ハイリの言葉に賛同してくれるものなど
居るはずもないのだ。
「別に、峰田の為のパーティだろ?
俺らが抜けても構わねぇ…よな?」
自分らに向けられた
どこか威圧する視線は有無を言わさない
そんな光を宿している。
轟はこんな顔をする男だったのか。
これでは小悪魔を通り越して悪魔ではないか。
一同は揃って首を縦に振る。
「「「はい。」」」
「だ、そうだ。
今夜は覚悟しろよ。」
言うより早く横抱きにされたのは
お姫様扱いと言うより
「絶対逃がさない」の意だと受け取るべきなのだろう。
結局この日
攫われるように連れ帰られたハイリは
公言通り一睡もさせて貰えなかった。