第25章 ♦番外編♦ ましゅまろホリック
はむっと音が聞こえた気がした。
それはハイリというより
傍で見ていたクラスメイトの感想だ。
中でも緑谷の反応といったらない。
背は肩も飛び上がらせて
顔だけでなく耳も首までをも赤くする。
珍しいことじゃない
轟はどこだろうか周りを気にしない
触りたい時に触る
自由気ままな猫の様だと
わかっていてもこればかりは慣れやしない。
轟が前触れも特になくハイリの耳たぶに噛みついたのだ。
瞠目する者、またかと目を逸らす者
反応は様々だが注意を集めた事だけは確か。
この後ハイリのお説教とはとても言えないお説教が来るのがいつもの流れ。
(またあれが来るのか)
耳を劈くような叫びを脳裏に浮かべ
それに対して構えるクラス一同。
その予想は
見事に裏切られた。
「違うな…。」
先に出て来た轟の一言に
ハイリの頭が傾いた。
つられて同じ向きに頭を傾げる轟に
更につられる様に皆の頭も傾く。
「なに…が?」
困惑している事は間違いないのだろう
しかし、それ以上に轟の表情が気になって
赤面すら忘れてしまうハイリ
問いの答えは
返ってこなかった。
再び迫った唇は今度は頬へ
先程より大きく開かれた口に頬を食まれ、目を瞬かせる。
しかしこれもまた
得心のいくものではなかったようだ。
「………………。」
今度はやや不機嫌さが見える
不満を抱くとしたら間違いなく自分の方だろうに
何故説明もなくこんな事をされ
こんな顔をされなければならないのだろうか?
当然、思いは口を衝いて出た
「あの、一体何を――…」
「動くな。」
だが、やっと出しかけた問いも
ぴしゃりと遮られ
出て来たのはこの二文字。
「はい。」
クラスメイトはもはや
自分たちの口が半開きだと言う事も
ここがパーティの場だと言う事も忘れて
事の成り行きを見守っていた。