第4章 【桜色】毒占欲 陽性
~Side轟~
緑谷の怪我について話し終えたと思った矢先
急に黙り込んだハイリ。
時折ブツブツと呟いている辺り考え事だとは気づいたが
コンビニに引き入れようが、曲がる度引き寄せようがあまりに無反応で
もう遠慮は良いだろうと、抱き寄せた結果がこれだ。
俺の問いにハイリは間抜けな顔を上げ
「だれそれ……?」
それ以上に間抜けな答えを返した。
気のせいじゃねぇよな?
この感じのやり取りは記憶に新しい。
どこまでも、とぼけたやつだ。
「お前、緑谷の怪我について考えてたんじゃねぇのか?」
「ああ、あの人緑谷くんって言うんだ。
考えてみたけど結論出なかったんだよね。」
再び眉を寄せて視線を空へと上げる。
どこか心残りを残したままこっちに帰って来た
そんな素振りが何故か気に入らねぇ。
俺の気も知らねぇでまた遠くに思考を走らせるハイリは、捕まえておかないとどこかへ飛んでいきそうだ。
だってのに
何故かそう行動出来ねぇ。
それ以上に胸を占める不快な感情がそれを阻む。
どっちも俺の感情だ。
なのに上手く調整できねぇ。
二つの感情を持て余したまま朝出た扉の前に着く。
「お茶でも飲んでく?」
苦笑いを添えて向けられたハイリの言葉に
どうしてか首を縦に振ることが出来なかった。
「今日は帰る。」
「…そだね、帰んなきゃだよねっ。」
なんで空笑いしてんのか、
普段の俺なら迷わず聞くだろうに
そのまま扉の向こうへと消えるハイリの顔を見送った。
(なんだか胃が痛ェ……)
痛いというよりは重い感じだ。
マンションのエレベーターの中でその部分をシャツごと掴む。
掴んだ場所は胃よりこぶし一つ分、上の場所だった。