第24章 【空色】インフェリオリティー コンプレックス
~Sideハイリ~
ユラと空気の流れまでもが見えた気がした。
『場の空気を味方にした方が勝ちなんだぜ。
スポーツだってアウェイよりホームの方が勝率が高いだろう?』
ああ、そうだ。
ねずちゃんだ。
とても校長には見えない
ネズミなのか犬なのか熊なのかわからない
この学校の根津校長。
本当にそのとおりだったんだ。
憑き物が取れた様に見える景色が変わると
目の前の患者がガラリ表情を変える。
「お前さ…――」
突然
追い詰められた猫が威嚇でもするかのように
どんどん早くなる脈は
“個性”を使わなくても診えそうな程だ。
「――不満じゃねぇのかよ
ヒーロー科に使役されて理不尽さは感じねぇのか?」
じくりと刺さんとする言葉は
間違いなく傍から見たA組と私の関係だ
本当は違う、逆だと言って良い。
だけどこれが、本題なんだろう。
「違うよ、使役じゃ…」
「違わねぇだろ、初めてA組に行くことになった日
お前驚いてたよな?
そんなの初耳だってそんな顔だったよな?」
「確かにそうだけど、違う。」
声は
自分でも怖いくらい静かだった。
ちゃんと笑っているんだろう
相手の焦りが表に見えて来る。
表情に、声音に、言葉に。
「ヒーロー科はそんなに偉いのか?
利用されて使役されてお前、何とも思わねぇのか?」
先程までの余裕は何処へ
私の言葉を聞かず
己の言いたい事だけを述べる
敵でも見るかのような目は
それこそヴィランの様だ。
劣等感が生み出した黒い闇
血の気が
引いていく心地だった
(そっか、私の所為で
A組の印象が悪化してるのか…。)
元々妬みひがみの対象だった
そんな所に普通科の生徒が中途半端に駆り出されている。
確かに何も事情を知らない人にとっては
自分勝手にも見えるだろう…。
冷静に分析する程に心に刺さる
自分が生み出した「優柔不断」という名の棘が。
「心操くん。」
今度は私が話す番だ。
つらつらと淀み無く流れ出ていた言葉を遮った声は
ひどく、固いものだったと思う。
彼は、A組を否定したいだけだ。
体育祭を目の前にして
対抗意識が膨れ上がってしまったんだろう。
選ぶ言葉は
少々きつめのもの
彼の劣等感をこの時間に拭いきってしまうのは
きっと不可能だ。
そう判断した上での選択だった。