第24章 【空色】インフェリオリティー コンプレックス
~Sideハイリ~
「だから初めから聞く気はねぇよ。」
決して溌溂としてないけれど
それはそれは楽しそうに笑うこの男。
なんと言う人だ
まんまと踊らされた。
しかも誰かを思い出す
つい今しがた
その誰かと気まずい雰囲気にまでなったと言うのにっ。
「……試したの?」
語気も強まる
目だって鋭くなる。
スプーンを握った手に力を込めて
カツリ音を立てて止めた。
間違いなく怒りは伝わってるはずなのに
目の前の顔は「ようやく話せる。」
そんな風に息をついて
テーブルの上に上げた肘に身を乗り出し
上目でニヤリと笑う。
「いや? 代わりにA組の奴等の
“個性”を聞いてみてぇってな。」
「っ…教える訳ないでしょ!」
「だろうな、よく飼い慣らされてる。」
クッと歪んだ笑みに
握ってた拳はさらに固くなった。
劣等感はそう簡単には拭えない
矛先はA組であって私は出汁に過ぎない。
わかっていても
この人の劣等感が自分のものと重なって
冷静さを保つことが難しい。
(落ち着いて、よくみて。
これは多分、まだ本題じゃない。)
向けられるのは試すような視線。
脈に心拍数に不自然な所はない。
本題に入ろうとしてるけどまだ違う
様子を窺いながら
私で遊んでいる…と言ったところだろうか。
ここでA組の肩を持ったら
彼の言い分を認めた事になる。
深呼吸にすら気を使う
動揺を見せちゃいけない
これはもう、勘に近かった。
「もちろん、君の“個性”も、その詳細も誰にも言わない。
飼い慣らされてる訳じゃなくて、フェアじゃないでしょ?」
『交渉の場で努めて振る舞うべきは毅然とした態度さ。』
そう、教えてくれたのは誰だったっけ?
握っていたスプーンを静かにおき
真っ直ぐに心操くんの目を見据える。
そうだ、彼が話す態勢でも
私が聞く体制じゃなかったんだね。
どれだけ動揺していたのか
今更笑いが出てしまいそうだ。
気付けば握っていた拳は
少しだけ緩んでいた。