第24章 【空色】インフェリオリティー コンプレックス
~Sideハイリ~
「心操くんっ!」
小走りでその席へと駆け寄ると
微動だにしなかった
そんな感じで座ったままのクラスメイト。
だけど私のカレーには
新しいスプーンがちゃんと添えられていた。
「あ、ありがとう。」
「それ俺じゃねぇ。」
親指で示されたのは
食堂の厨房。
自己主張甚だしい当校のシェフが
両手でサムズアップしている。
あれが無ければ紳士的だと言うのに。
(なるほど…。)
大きな反応を返す訳にも行かず
ぺこりと頭を下げる。
勿論心操くんに私と教師陣の関係を覚らせない為だ
だけどそれはあまり意味はなかったみたい。
「教師は大体知ってんだろ?
楠梨の“個性”」
確信を持った瞳が嫌味に細められ
下からゆっくりと上がって来る。
この人はどこか、何かに確信を持っている
それだけは確かだ。
さて、どう話そうか
考えながら椅子に座る。
咳ばらいをしながら姿勢を正すと
今度は何がツボにはまったのか
また笑い始めた。
この人、ちょっと苦手だ…。
「心操くん、楽しんでるところ悪いんだけど
話の続き、良い?」
くつくつと
堪えながら笑っているのもさっきと変わらない。
流石にカチンと来て
語気は少し強めになってしまった。
「心操くん?」
「ああ、悪い。“個性”だろ?
話す気になったのか?」
「ん、話そうと思った。
だけど止めた。」
わりと潔く
はっきりと言ったつもりだ。
なのに心操くんにとっては予想の範囲内だったみたいで
突然お道化た様に口調が変わって
「だろうなぁ…
詮索したら退学だとか言われてるもんなぁ…。」
予想だにしない
とんでもない情報が出て来た。
「たっ…たいっ……!?」
思わず上がりかけた大声を
ハッと両手で口を抑え込む
声を我慢したんだ
ガタリ、音と共に立ち上がってしまったのは
しょうがないだろう。
知らない顔ばかりがこちらを振り返り
次第に戻って行くのを確認しながら
心操くんに視線を戻すと
コクコクと頷きながらまた笑ってる…
可愛げの笑い方だけど
見慣れてくるとこれがニュートラルのように見えて来る。
だとしたらこの人は
無邪気に笑いながら
退学への道を着々と歩んでいる事になるけれど…。