第24章 【空色】インフェリオリティー コンプレックス
~Sideハイリ~
肩を抱かれた時間は1分も無かった。
流れるように腕の上を転がされ
5本の指先で背中をトンと押された私は
運動の法則に従って力を加えられた分
足を数歩踏み出しただけ。
つんのめるように踏み込んだ部屋で顔を上げると
そこに開かれた世界は
(食、堂……だ。)
ガヤガヤとカチャカチャと先程とさして変わらない音
奇跡的にも、騒ぎは食堂外で留まっていたようだ。
視線は自然と元居た位置へ
目印の葵色が
まるで「メニューお願いします」
とでも言っているかのように手を上げた。
なんだかワープでもしたかのよう。
一瞬で変わった空気にホッとして深呼吸はしたけれど
このまま心操くんのところへ戻る訳にも行かない。
(あの状態の焦凍を放っておくわけには…。)
そう思って振り返ると
そこにあるのは私を食堂へと押し戻した人の背中。
なんだかまるで
庇ってくれているみたい――…
「あの、ばくご…」
「うるせぇ。」
…――だと
そう見えたんだけどな。
私の言葉を遮ってまで罵倒を浴びせて来るときた
煩いと言われる程まだ話してないんだけどな?
それに…
私今、ご飯どころじゃなくて
そう言いたかったのに
上がったのは間の抜けた返事だった。
「………へ?」
辺りがいつもの喧騒に戻った所為か
徐々に心拍数が落ちていく
(戻った? 違う。)
私が抜けただけで
今も焦凍の空気は張り詰めているんだろう。
爆豪くんが逃がしてくれたに過ぎないんだ。
どれだけ悪態をつかれても
それは間違いない。
胸を撫で下ろして
もう一度その背を見ると
僅かに振り向いた横顔が静かに私を睨み
肩の高さまで上がった左手が
犬でも追い払うかのように
2回
私に向かって宙を払った。
しっしと
邪魔だとでも言いたげに。
素直じゃないとこは
ホント
私といい勝負だと思う。