第24章 【空色】インフェリオリティー コンプレックス
~Sideハイリ~
(同じ場所だ…。)
最初に思った事。
それがことさら私を責め立てている様で
「痛い」の一言も漏らしてはいけないと思った。
食い込む牙は爆豪くんの時より深い。
あの時の歯型はもう消えているけれど
やっぱりまだ気にしていたんだろうかと
視線は宙を泳ぐ。
肩越しに見える景色は
いつもよりざわついた食堂前の通路だ
すぐそこを通る男子生徒は
見ないように顔を背けながら
目だけはこちらを向いている。
やや遠くには
立ち止まり耳打ちをし合う女生徒たち。
この前の比じゃない
なんたって人の量が違う。
(そう言えばここで
飯田くんがあのパニックを収めたんだっけ。)
凄く昔のように思うけどまだ一月も経ってないんだな…
なんて現実から逃げるように考えて小さく笑う。
あの日に付き合い始めたんだ
この短い間に何度傷付けたことだろう。
歯が肌から離れると
熱に沿ってぬるりと舌が這う。
熱いのは出血でもしてるんだろうか
じくりと傷むこれは誰のものだろう…?
言葉が
零れ落ちる。
「ごめんね…。」
自分でも意地っ張りだと思う
何度消太くんに諭されたか
何度ちよちゃんに呆れられたか
それでも張り続けていた意地だけど
そろそろ潮時なのかな
「“個性”を教えた方が納得して貰えると思ったの。」
十年かけて張り続けた意地をあっさり解くなんて
やっぱ焦凍って特別なんだな…って
だから「もうそんな無茶言わないから」って
そう言おうとして
ふと離れた体温に開きかけた口を固めた。
「てめェらいい加減にしろ。」
首筋に走っていた痛みも
肩を刺していた痛みも急に遠のいて
代わりに腕に圧が掛かる
腕を引くのは先程とは違う力
握っていたのは
「ぁ…。」
爆豪くんだった。
淀みながらもかろうじて流れていた辺りの生徒は
その大して大きくもない声に振り返り
流れを止める。
それでも白昼の賑々しさが収まることは無かった。