第24章 【空色】インフェリオリティー コンプレックス
~Sideハイリ~
「私の“個性”はね――」
だけどその“個性”の最初の一文字すら言わせてもらえない
遮ったその声に、肩がビクリと跳ねた。
「待て。」
雑多のど真ん中
騒音は四方八方で響いているのに
その声だけが一つ抜きん出て大きく響く。
右手から離れたスプーンがカレーが乗せたまま
カラ…ンと音を立てて床を転がっていった。
立ち上がらせるように引き上げられた腕を掴んでいたのは
「お前、何を言おうとしてんだ。」
不機嫌とは違う
静かな怒りを瞳に宿す焦凍だった。
(いつの間に…。)
初めて見る表情なのに
初めてだとは思えない。
それは
私が言い付けを破る度に向けられた
消太くんからのものと同じものだ。
ザワリ色めき立った食堂は
何ごとかと好奇の視線を一点へと集中させる。
場に静けさを落としたのも
注目を集めているのも
私が口にしようとしたことが原因じゃない。
止めに入った彼のせいだというのに
周囲を目だけで見渡した焦凍は
やれやれと当てつけのように息をつき
「来い。」
一言だけ放ち
掴んだままの右腕を引っ張っていく。
サラと靡く髪の向こう側に見えたのは
僅かに覗いた頬と
男の癖にやたらと白い首筋
決して私を顧みようとしないその態度と
腕に走る痛みは自業自得だ。
反論する隙も与えて貰えず
この身以外の全てを置き去りに
私は引かれるがまま食堂の出口をくぐった。